2013年11月27日水曜日

護送船団

英語ではコンボイ(Convoy)と呼ばれています、こっちの呼び方のほうがしっくり来るので以降はこう呼びます。コンボイはWWIで独逸の無制限潜水艦作戦によって大西洋の補給路を脅かされていた英国で戦術として体系化され、1917年9月に初めて使われました。要するにいままでバラバラに行動していた輸送船をまとめて行動させてそれに護衛をつけただけですが、実際これによって英国の輸送船の損耗率は劇的に改善されました。コンボイはWWIIでも使われた戦術ですが今回はWWIに限定して解説したいと思います。

コンボイは上でも述べたように輸送船団とその護衛艦の船団ですがソナーなどが未発達の時代、潜水艦から輸送船を守るためにさまざまな工夫が施されています。
①先行する快速艦艇、この艦が先行して進路上を哨戒した。
②輸送船(ダズル迷彩をしていることが多い)
③駆逐艦、ジグザグに進むことで敵潜水艦に進路を先読みされないようにした。潜水艦目撃情報が多数ある危険地域ではコンボイ全体が駆逐艦と合わせてジグザグに進んだ。
④武装漁船、コンボイは多数の護衛艦艇を必要とするため駆逐艦だけでは数が足りず、民間の漁船を徴用して水兵を乗せていた(こちらもダズル迷彩をしていた)。
⑤コンボイの先頭にいる巡洋艦もしくは駆逐艦、これが旗艦であり司令官が搭乗していた。
⑥観測気球を乗せた快速艦艇
⑦船団から落伍しているように偽装したQシップ(細かい解説は下で)

用語の解説をすると、ダズル迷彩とは濃淡のついた幾何学模様の迷彩で一般的な迷彩のように風景に溶け込んで目立たなくさせるものではなく派手な幾何学模様で敵に進行方向や速度などを悟られないようにするものです。言葉で説明するより見たほうが早いので画像を載せます。

そして英国のアイディアの面白さが一番出ているのが⑦のQシップという艦種でしょう。端的に言えば輸送船に偽装した武装艦艇です。だいたい輸送船の中でも見た目がボロボロのものを選んで武装を積んで、水兵を民間船員に擬装させたものです。これを見た潜水艦は船団から落伍している上見た目もボロボロなので当時はかなり高価で搭載数も少ない魚雷を惜しんで浮上して砲撃を加えようとすることが多く、その時を狙って隠しておいた艦砲で潜水艦に向けて砲撃をするというだまし討ちに特化した変態艦です。こういうアイディアが通ってしまうのが英国の恐ろしさ。もちろん戦果も上げています、詳しく知りたい人は宮﨑駿の雑想ノートに漫画があるので是非一度目を通してみてください。

さて、話をもどすとコンボイは足の遅い輸送船のなかでさらに一番遅い船の最高速度に合わせて進行し、危険地域を進むときや潜水艦発見情報があった時は船団全体が度々進行方向を変え、ジグザグに走行します。簡単に言いましたが密集隊形を組みながらこれを実際にやってのけた英国海軍の水兵の練度には驚嘆させられます。このコンボイは実際どれだけ役に立ったかを示すデータはたくさんありますが分かりやすいグラフを貼り付けて説明とさせていただきます。
 
 
具体的な数値に興味がある方はhttp://en.wikipedia.org/wiki/U-boat_Campaign_(World_War_I)ここを参照してください。
 

2013年11月26日火曜日

縦深戦術


縦深戦術はソ連軍によって生み出され、バグラチオン作戦などがその実施例として有名です。
歴史的経緯はwikiにでも譲るとして細かい戦術面に注目して語っていきたいと思います。


 
 
一番イメージ的にしっくり来る図が何故かベトナム語のものだったので一応説明すると赤がソ連
軍です(ベトナム語はわからんがそうでなきゃおかしい)。ただしこの図は縦深戦術の全貌ではなく
一部をミクロな視点で見たものです。実際のソ連軍の攻勢はこの光景が50-200kmに渡って南北に続いています。
 
 
①~④に段階分けして解説します
①砲兵部隊による敵防衛線の全範囲(後方の補給部隊、予備部隊に対しても)に向けた砲撃。この砲撃によって敵部隊の消耗と疲労をさそう。ある程度軍事を知っている読者ならソ連軍の砲撃というだけでどのくらいの規模かは把握できると思います。

②第一梯団による前線正面への攻撃。第一梯団の仕事は敵戦線に突破口を開くことであり作戦で決められた地点まで損害を顧みず(お察し)に突破することが求められました。

③突破によって疲労した第一梯団に変わり、待機していた第二梯団が突破口からさらに戦果拡大と敵の予備兵力の到着阻止を目的とした前進を開始。空軍からの敵予備兵力への爆撃や空挺部隊の投下による包囲などの支援を受ける。特にドイツ軍は突破を終えたソ連軍への機甲部隊による反撃こと「マンシュタインのバックハンドブロウ」という戦術を行うことがあるため来援した敵予備兵力を疲労していない第二梯団で叩くことは極めて重要でした。なおこの間に突破された敵軍の防衛線の部隊を後方の予備部隊、第一梯団が包囲を行います。

④この後さらに予備部隊による追撃や空挺部隊による敵の退路遮断などの作戦行動が行われる。

というのが縦深戦術の主な内容ですがよく考えてみてください。これ敵の何倍の兵力いるんだよ!結局物量によるゴリ押しじゃねーか、こんなのが戦術と言えるか!という意見を持った人もいるかもしれません。

でも歴史をみればこれは非常に革新的(革命的?)な戦術なんです。たとえばWWIのニヴェル攻勢では48万の独軍に大して仏軍は120万ほど動員して攻勢をかけたにもかかわらずついに突破できなかったようにWWIではついに防御側の有利が崩れることがなく、大規模な突破からの殲滅も起き得なかったのです。それが航空攻撃や機械化部隊の進歩によってついに可能になったわけですから極めて意義が大きいんです。

だったら電撃戦のほうが偉いんじゃねーのとも思いますが結局のところ電撃戦は機甲部隊の機動力をもって敵の指揮系統を麻痺させるのに主眼がおかれており敵野戦軍の殲滅にはつながらないため縦深戦術よりはどうしても戦果が劣ってしまうのです。それに何より縦深戦術は冷戦になっても使われ続けるため有効性はこちらに軍配が上がったとみてよいと思います。